わが星

STORY

ここはコスモスっていう団地で、あたしたちは今日ここに引っ越してきた。

上から3番目の、左から9番目の、下から7番目。137あるうちのここがあたしの家。

お父さんと引っ越し屋さんがタンスを運んでる。

テレビ、洗濯機、冷蔵庫、ちゃぶ台、二段ベッド、食器棚、本棚、ミシン。

あたしは地球で、みんなからちーちゃんって呼ばれてる。

生まれてから6億年間ひとりぼっちで、その後はいろんな人たちがいっぱいいてけっこうにぎやか。

今までたくさんの生き物が生まれては絶滅した。絶滅はやっぱりかなしい。

 

お母さんと隣の家にあいさつに行く。ピンポーン。

そしたら、あたしよりちょっとちっちゃい女の子が出てきた。これが月ちゃん。

二人はめっちゃ仲良しになる。むかつくときもあるけど毎日いっしょになる。

月ちゃんちにはいつも誰もいない。あたしはそれをかわいそうって思ってるけど月ちゃんには言わない。

でも実はあたしと月ちゃんはちょっとずつ離れていってる。誰も気がつかないぐらいちょっとずつ。いつか別れるのかな。

 

月ちゃんと遊んでたら、お姉ちゃんに呼ばれる。晩ご飯だって。そしたら家まっくら。

天井につける電気をお父さんが持ってきて、お母さんがヒモを引っ張った。

電気が遅れてて、8分してから、やっと家が明るくなった。

みんなでお蕎麦を食べる。お母さんがゆでてくれたやつ。

電話もつながるようになったとちがうっておばあちゃんが言う。

お父さんがあたしにどこかかけてみろって言う。

どこかってどこー?って聞いたら、1、1、7って言うから押したらかかった。

それは時報で、女の人の時間を刻む声が、わが家に響く。

お父さんはそれを聞きながら、家の時計を合わせる。

あたしは60カ国語のハローで受話器の向こうに話しかけるけど返事はない。

 

二段ベッドの下があたしの寝る場所。お腹がむずむずして寝返りをうつ。

人間は今日もケンカしてるみたい。もう夜だから静かにしとき。

眠れないあたしは窓の向こうを見る。

向こう側にも団地が並んでて、たくさんの窓が点々と光ってる。

どこかの明かりの男の子が望遠鏡で、あたしのことを見て好きになったらしいけど、それ何百年も前のあたしだよ。

 

いつのまにか眠ってしまったあたしは夢を見る。夢の中であたしは時間を超える。

時間は相対的だから、誰かが光速より速く動くと、あたしは何百億年も年をとるって先生が言ってた。

時報はどんどん早くなって、誕生日が何回もやってくる。

畳は色あせて、キレイだった床にはホコリが目立つ。

タンスに貼ったシールは黄色くなった。破れたふすまはおばあちゃんが直してくれた。

蛍光灯は切れて、冷蔵庫はうるさくなって、テレビはうつらなくなった。

それで50億年して、この団地は大きな火事になって、あたしもお姉ちゃんも月ちゃんもみんな燃えてなくなる。

あたしはそれを知っていて、そうなることはもうどうしようもなくて。

でもあたしたちはどこにも引っ越さない。あたしたちの家はここでしかないから。

それもまだ50億年も先のこと。100億光年向こうの人から見たらあたしまだ生まれてないし。

そんな夢を見ながらあたしは眠る。明日も月ちゃんと一緒に遊ぶ。楽しみだー。

 

あたしはここに生まれてよかった。

水星はデコボコ過ぎて寝らんないし、金星は暑すぎる。

木星と土星はガスだし、天王星と海王星は氷だからしもやけになっちゃう。

でも、一番おっきいのは、あたしにはみんながいるってこと。

もしよそに生まれてたら、何十億年もひとりぼっち。そんなんさびしいよ。

 

 

だからほんと

 

あー、地球に生まれて

 

よかった。

 

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